バリスタ濱田慶の「空飛ぶラテアートblog」 Vol.3 "こぼれ落ちた肩書き" | cafemagazine

バリスタ濱田慶の「空飛ぶラテアートblog」

バリスタ濱田慶の「空飛ぶラテアートblog」 Vol.3 ”こぼれ落ちた肩書き”

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バリスタ濱田さんmain6月16日、ブレンズコーヒーラテアート選手権の決勝大会に出場しました。
予選の前日はとても緊張してたのですが、決勝の前日は全く緊張しませんでした。その為、決勝の前日は同じく決勝に参加する同僚の赤川(家でラテ練をしすぎて部屋全体がコーヒー臭くなり満足に睡眠がとれなくなっている男)の緊張を、如何に高めるイタズラをするかを追求するほど余裕がありました。

決勝当日もリラックスしていて、本番の会場に着いてからも同僚の赤川(一時期ストイックをはき違え、飲みものはラテだけ、食べ物はコーヒーゼリーだけで生活して、すべてを失いかけた男)の緊張をいかに高める絡みをするかを追求する余裕がありました。

そんなリラックスした心のまま、自分の出番が回ってきました。
決勝はトーナメント方式で、4分間で二人同時に作り始め、一番良かったラテを提出し、審査員の票を多くとった方が勝ち上がります。
写真 1僕はいつも通りマシンの前に立ち、いつも通りメモを取り出し、いつも通り素振りをして、スタートの合図を待ちました。スタートと同時にいつも通り牛乳に手を伸ばし持ち上げました。しかし、牛乳は持ち上がりません。指先に力を入れました、指先が震え出しました。
今まで大会で震えた事がなかったので、気のせいだと思い込むしかありませんでした。なんとかエスプレッソを抽出しミルクをスチームしきりました。顔を上げました、審査員席の前で注いでいる、対戦相手の高山さんの背中が目に入りました。写真 2高山さんの真後ろで注いだらウケるだろうと思いました。正常な判断力を失っていました。高山さんの後ろ2cmまで詰め寄り注ぎ出しました。高山さんのTシャツより高山さんに近づきました。
当然注ぎ終わった高山さんの殿部が衝突し、ラテをこぼし笑いも起こりませんでした。まだ時間はありました。二杯目もエスプレッソとミルクはなんとか仕上げ、無人の審査員席の前に行き注ぎ出しました。

異常に震える手で一手目、ニ手目、三手目、なんとか注ぎました、カップの容量ギリギリでした、そこで何故か四手目を入れました、正常な判断力を失っていました、ミルクがゆっくりこぼれ落ちて行きました、シアトルの街並み、表彰式から見た風景、喜んだお婆ちゃんの顔がこぼれ落ちて行きました。

こぼれ落ちた肩書きが足元で水溜りになっていました。守り続けてきたものはただの汚れになりました。結果は聞くまでもありませんでした。

すぐ荷物をまとめ南青山の根津美術館に浮世絵を見に行きました。正常な判断力を失っていました。
写真 1外は雨が降っていました。道端の水溜りがやけに目につきました。

それから一週間経ちました、もうブレンズコーヒー青山花茂店に僕の作った水溜りはないでしょう。

決勝の前は、もう大会からは身を引こうと決めていたのですが、
このままでは同僚の赤川[今年に入ってラテを注がなかった日が一日もなく、他人に関心を持った日も一日もない男(ただし一週間程例外あり)]に見下され続けるので、環太平洋諸国の大会なら出場します。
その為に、どんなに震えても注げる心を鍛え、何が衝突しても注げる身体を鍛えてゆくことにします。
 

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